俳句の作り方 月の俳句
月光にいのち死にゆくひとと寝る 橋本多佳子はしもとたかこ
げっこうに いのちしにいく ひととねる
月光が秋の季語。
「俳句では単に月といえば秋の季語です。
月は四季それぞれに趣がありますが、秋は大気も澄み渡りより美しく見えるからです。」
(よくわかる俳句歳時記 石寒太編著)
「月はいわゆる雪月花の一つで、
古来多くの詩歌に詠まれ物語の背景を支えてきた。」
(俳句歳時記 秋 角川書店編)
句意を申し上げます。
月の光を浴びながら命の果てそうな人と寝ているのです。
「橋本多佳子は、昭和12年(1937)38歳の時に夫豊次郎に先立たれました。
自分と4人の娘を遺して、命つきようとしている夫。
その哀しみに耐えて添い寝をしているのです。
『月光』が一人の人間の人生の終焉を象徴しているかのようです。」
(よくわかる俳句歳時記 石寒太編著)
月光にいのち死にゆくひとと寝る
実際には月光を浴びながら添い寝をしていたのではないかもしれません。
しかし、月の光のかすかな明るさは死にゆく命の儚さを表現してしています。
ところで俳句を鑑賞するときは作者の気持ちになって想像することが肝要です。
では、作者は衰弱した夫と寝た時どんな心情だったのでしょう?
筆者は諦めだと思います。
もう、この人は死ぬ。ああ、死んでいく。
死を受け容れるしかない、切なさを伴った諦観です。
それと共に後悔は一瞬、胸をよぎったのではないでしょうか
月光にいのち死にゆくひとと寝る